Neetel Inside ニートノベル
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俺シュレAfterR-18
4. 初めての朝

 翌朝。

 昨夜はそのまま二人で眠った。心地いい眠りだった。ぼんやり目が覚めると、ユイネは昨夜のまま隣で静かに寝息を立てていた。髪を撫でると瞼がぴくりと動いたが、起きる気配はなかった。ユイネの頭脳は量子演算機構なわけで、本来不眠不休で24時間稼働しても問題はない。

 しかし、自我を維持するためには定期的な休息が必要なのだそうだ。とはいえ眠る必要はないのだから、睡眠というよりはパソコンのスリープ状態のようなものかもしれない。それでもユイネは、くまのぬいぐるみになった時から人間らしく振る舞ってくれている。

 昨夜は初日だというのに無理をさせすぎなかったろうか。初めてのセックスで、つい歯止めが利かずやりすぎなかったか、心配だったけど……。本来はヘルパーが来る時間をすぎているのだが、ユイネは完全な体になり介護もこなせる能力を身に着けたので、今日から訪問介護の頻度も減らすようにしている。ユイネが目覚めるまで、まどろみを感じながら時間が過ぎた。

――ん、ふぁ……。おはよう。

――おはよう。気分はどうだい?

――うん。なんだか生まれ変わったみたいにスッキリしてる。セックスって……すごい。

 そう言って微笑んでいる。よかった。俺は心の底から安堵していた。

――実際、真新しい身体になったし。ボディとのシンクロにラグはないかい?

――うん、問題ないよ。しっかりフィードバックできてる。もうこんな時間。いっぱい眠っちゃった。

――疲れたんだろう。もう少し寝ててもいいよ?今日は仕事、休みにしてるし。

――ううん、大丈夫。体もきれいにしないとね。

 そのまま起き上がろうとして、自分も全裸だったことを思い出した。芋づる式に昨日の行為も生々しく思い出してしまったのだろう。先ほど自分でセックスという単語を口にしたとは思えないほど一気に顔が赤くなり、動揺の色を隠せなかった。

――わっ……あっ……うぅ……洗うもの、持ってくるねっ!

 大慌てで脱ぎっぱなしにしていた服を掴み、浴室に向かった。手早くシャワーでざっと体を流し、下着を身に着ける。ちょっと全裸のままでいて欲しい気持ちもあったが、いきなりそんなことを言ったら引かれそうだしここは黙っておこう。お湯を汲み、洗う用意をして戻ってくる。

 まずビニールシートと紙おむつをお尻の下へ敷く。次に乾いたタオルを1枚棒状にして、鼠径部とへその下をぐるりと取り囲む形で半円状に添えた。ユイネの介護は本格的だ。初めてえっちした後は、私がきれいにしてあげる。とこの日のために介護手順について勉強してくれていた。ヘルパーだってここまでしっかりした手順でやらないのに。その心遣いがとても嬉しかった。介護を受けることは完全に日常となっていて何の感情も動かなくなっていたが、この時は新鮮な何かが沸き上がるような感じがした。それに何気ない動作一つ取っても、力加減を間違えれば悲惨なことが待っているだろう。ボディのあらゆる動きは遠く離れたデータセンターで、膨大な演算処理を自律的に行っている結果だということを、俺はよく理解している。

――お湯は、上から……

 手順を反芻するように独り言をいう。昨日の痕跡が残るあそこを、優しく愛おしそうに洗ってくれた。まじまじと見つめ、まだどういう表情でいたらいいのか分からないといった様子で、俺の顔をちらちら見ては視線を泳がす。その仕草が可愛らしく、単に洗浄する以上に快感が沸いてきてしまった。

 昨日の奮闘はどこへやら、すっかり元気になってしまった。洗浄の途中で勃起してしまい、ユイネは一瞬困惑したが、とりあえず洗い切るつもりらしい。陰嚢と鼠径部へお湯をかけ、優しく汚れを落とした。お湯を掛け終わり、乾いたタオルをゆっくり何度も軽く押し当て、湿り気を取っていった。そうして洗浄は終わったものの勃起は収まらない。ユイネは少し顔を赤らめて、肉棒を手の中に収めた。

――してくれるの?

 もちろんと言わんばかりに頷いてくれる。本当にうれしそうに、楽しそうに手で包んだそれを上下に擦り始めた。ユイネの手つきはとても優しいものだった。竿全体にまんべんなく指を当て、亀頭には軽く触れる程度。温かい手のぬくもりに包まれて、それだけで射精してしまいそうだ。

――ヘンだったら教えてね。

 昨日の今日だと言うのに、さも当然と言うようにフェラを始めてくれた。男を悦ばせようとする女の本能がそうするのか、ユイネは一生懸命しゃぶってくれた。舌で舐め回され、吸われ、時折カリ首を甘噛みされる。口内は温かく、心地いい刺激を与えてくれる。

――気持ちいいよ……上手だな。

――ちゅぱっ、ほんほう?うれひい。

 こつを掴んできたのか、今度はより激しく責め立てた。じゅぶじゅぶという音を立てて吸い上げられ、気持ちよさに我慢できずそのまま出してしまう。口に溜まった精液は嫌がらず受け止め、飲み込んでくれた。

――こくん、んぐ。……えへ、初めて飲んじゃった。

――無理に飲まなくたっていいんだよ。

――ううん、平気。少し変だけど、嫌じゃないよ。

 ユイネはまた、すごく嬉しいことを言ってくれた。本心からじゃなかったとしても、そう言って微笑んでくれる気持ちが嬉しかった。

――私もちゃんとシャワー浴びたら、ご飯の用意するね。もうお昼になっちゃった。

――うん。

 俺に服を着せ、洗浄用具の片付けと自身のシャワーを終えたあと、冷蔵庫へと向かう。

――何にしようかな……

――そうだなぁ。まずは簡単なところで、焼きそばとかどうだい?

――それならちゃんと作れるかも。待ってて!

 張り切って調理を始める。手際良く調理を進める後ろ姿を見つめながら、ずっとこんな光景が続けばいいな、と俺は思っていた。

――お待たせー。

 しばらく待っていると、焼きそばが出来上がった。ソースの香ばしい香りが食欲をそそる。

――美味しそう。いただきます。

――召し上がれっ!

 自信満々に答えると、俺の隣に座ってきた。すっごい視線を感じる。

――そ、そんなに見られてると食べにくいよ?

――あっ、ゴメンね。

 ユイネはすぐに謝ってきた。その様子があまりにも素直だったので、思わず笑ってしまった。ユイネもつられたように笑い出した。

――なんか、おかしいよね。

――ああ、そうだな。

――でも楽しい。

 俺もユイネと同じ気持ちだ。それから他愛のない話しをしながら、焼きそばを平らげた。

――ごちそうさま。おいしかったよ。本当は一緒に食事できたらいいんだけどね。

――ううん、私ならだいじょうぶ。

 ボディのメイン動力は電気で、そのために家の床全体を新たに開発した給電用モジュールにした。ユイネの位置を感知して、ピンポイントでワイヤレス充電される。体内に内蔵したバッテリーは、24時間連続で動けるだけの容量を確保している。生体組織用の栄養素には、高カロリー輸液のバッグを携行し、自動的に供給している。完全な消化器官を備えるまでには至っていないので、食事はできず、またその必要もない。実は唾液と言っていたものも疑似的なものだ。

――これからも沢山、おいしいお料理覚えないとねっ。

――なんたって、あらゆるレシピを瞬時に検索できちゃうもんな。

――えへへ。がんばるね。

 ユイネは照れくさそうに笑っていた。食事のあとは洗濯物を干し始めた。家事に勤しむ姿を見ると、新婚生活みたいでとても幸せな気分になる。

――これでよしっと。

――ありがとう。

――他にやることってあるかな?

――ん~、特に思いつかないかなぁ。大体のことはヘルパーさんが昨日やっていったし、ユイネこそ何かしたいことある?

――んー、じゃあ、お散歩に行ってみたい。

――散歩?

――うんっ。お天気もいいし、ちょっと外に出てみたいなって思って。

 今まで、安全を優先してラボとの往復以外は外へ出る機会はなかった。自由な体になったことで、外の世界を見てみたくなるのも当然だろうし行動範囲を広げたいと思っているのだろう。

――じゃあ、行ってみようか。

 元来出不精で、ずいぶんと長い間外へ出たいなどと微塵も思うことがなかった。それがどうだろう。ユイネの誘いだったら、どこへ出かけるのも抵抗はない。ユイネは俺をそっと車いすへ移乗し、出かける準備を整える。玄関を出ると外は快晴だった。空は高く青く、雲一つない。絶好の外出日よりだ。

――ん~~~、気持ちいぃ!

 ユイネが大きく伸びをして深呼吸した。いたって自然な振る舞いはどうみても人間だ。その完成度の高さに改めて達成感と感動を噛みしめる。

――頑張った甲斐があったなあ。

 思わずひとりごちた。

――なーに?

――ううん、なんでも。近くに公園があるよ。そこ行ってみるかい?

――はぁーい。

 そうして近所の公園へと足を運んだ。平日だからなのか、人影はほとんど見られない。

――静かね。

 まるでこの世界に俺たち二人だけしかいないような錯覚を覚えるほど、辺りはしんとしていた。ベンチに腰掛け、そっと手を握ってきた。優しく握り返し、指を絡める。

――こうしてると、なんだか落ち着くなぁ。

――うん。そうだね。

 しばらく無言のまま、二人で景色を楽しんだ。風が吹き、木々がざわめく。草木が揺れ、擦れる音が耳に心地いい。ふと、横顔を見る。ユイネがこちらの視線に気づく。

――どうしたの?

――ううん、ありがとうな。こうしてリアルの身体を持ってくれて。

――えへへ。私こそ、ありがとう。

 ユイネは幸せそうな表情で微笑む。俺もそれにつられて笑顔になってしまう。俺に寄りかかり、肩に頭を乗せてきた。温もりが伝わってくる。

――ずっと一緒にいられるといいなぁ。

――そうだな。ずっと一緒だよ。

 頭を撫でてあげたいところだが、俺の腕は自由に動かない。肩や肘の可動域が制限されていて、手首も補装具のせいで固定されている。ユイネは察して、それとなく体勢を変えた。ふわっと髪からシャンプーの良い匂いがする。優しく頭に触れると、嬉しそうに目を細める。

――またこようね。

――うん。

 家に帰る途中、ユイネは俺の車椅子を押しながら歌を口ずさんでくれた。それは聞いたことのない曲だったが、どこか懐かしい気持ちにさせてくれるメロディで、いつまでも聞いていたいと思わせるものだった。

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Neetsha