Neetel Inside ニートノベル
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俺シュレAfterR-18
5. 初めてのお風呂

 家に着くと、ユイネは夕食の準備に取りかかった。キッチンに立つ姿を眺めていると、よからぬ妄想が脳裏に過ってしまう。さすがにいきなりエプロンだけとか頼んだら怒るかな・・・。

――なんだか、にやけてない?

 視線を感じたのか、こちらの様子を伺って尋ねてくる。

――そ、そんなことないぞ。気のせいじゃないか?

――あやしい~。

――い、いや~。ご飯楽しみだなぁー。

 慌てて話しを逸らすと、疑わしそうにジト目を向けられてしまった。

――もうっ。

 ぷくっと頬を膨らませたあと、やがてクスッと笑って言った。

――頑張って作るね♪

 ユイネは腕まくりをして気合を入れる。そして冷蔵庫から食材を取り出した。湯を沸かし味噌汁を作りながらキャベツと人参、豚肉を適度な大きさに切っていく。包丁を持つ姿はとても様になっている。とん、とん、とん、とリズム良く刻む音が台所に響く。しばらくするとご飯と味噌汁、野菜炒めが完成した。

――えへへ~。できたぁー!

――おおっ。おいしそうだ。

――そ、そうかな。食べてみて?

 はにかむユイネを見て、胸の奥がきゅんとなる。俺のために一生懸命作ってくれたと思うだけで、とても愛おしく感じる。

――じゃあ、いただきまーす。

 早速作りたての料理を口に運ぶ。一口食べると、優しい味が口に広がった。

――ど、どうかな?

 心配そうな表情を浮かべて聞いてくる。

――うん、おいしいよ。

――ほんとう!?やったぁ。いっぱい食べてね。

 今までは訪問介護の時間に追われ急いで食べていたが、もうそんな必要はない。しかも、ユイネと二人だけの時間。楽しくおしゃべりしながら、ゆっくり食べられる。俺のために愛情が込められた料理を食べながら、心の底から幸せを感じていた。

――どうだった?私のお料理。

――うん、最高にうまかった。ありがとう。

――えへへ。よかったぁ。片付けちゃうね。

 食器を下げ、テキパキと皿を洗っていく。手際の良さに見惚れてしまうほどだ。後ろ姿を眺めていると、不意に振り向いてきた。

――片付け終わったら、お風呂の用意するね。

――あ、うん。

 いままで生きてきて、女子と二人っきりでお風呂に入ることなんてなかった。入浴介助は同性が基本であるし、仮に一緒に入ってくれるほど親しい間柄の女性がいても、全介助が必要な体で重労働な入浴介助を女性一人に頼むのは難しい。この先もありえないシチュエーションだと諦めていた。入浴時間もヘルパーの都合に合わせて手早く終わらせなければならなかった。これからは二人で一緒に、時間を気にすることもなく入ることができる。喜ばしいことだが、何だか緊張してきた。

 家事を終えたユイネが、タオル類を準備して浴室に向かう。先に脱衣所で服を脱ぎ、タオル一枚だけを身に着ける。その姿に、ついつい食い入るように魅入ってしまった。

――えっちなこと、考えてるでしょ?

 顔を赤らめてこちらを見てくる。どうやら見透かされていたようだ。

――そ、そんなことはないぞ?

 慌てて取り繕う。

――うそつき。

――いや・・・、その・・・。ごめんなさい。

 ユイネは悪戯っぽく微笑む。

――えへへ。冗談だよぉ。

 好きな子にからかわれるのって、なんとも言えない甘酸っぱい気分になる。こんな気持ちになるのは、何十年ぶりだろうか。照れくささをごまかしつつ、服を脱がしてくれるよう催促する。

――俺の服も頼むよ。

――はぁい。

 そうして俺の衣類をゆっくり脱がせてくれた。すっかり裸になると、タオルを掛け浴室に入る。洗い場には簡易ベッドのようなものを置いてあり、そこへそっと寝かせてくれた。シャワーを出すとまず自分の手に当て、常に適温かどうかを確かめながらかけてくれる。細かい配慮が行き届いていて、安心して身を委ねられた。足先から少しずつお湯をかけていき、全身に満遍なく湯を掛けられる。ある程度温まったところでシャンプーを手に取ると、髪を丁寧に洗ってくれた。

――痒いところはないですかぁ~?

 美容師さんのような口調だ。リズミカルに、かつ丁寧に洗いながら楽しそうに聞いてくる。指先が頭のツボを刺激するようで、とても気持ちいい。

――大丈夫ですぅ。きもちいいでぇす。

 第三者に聞かれたら大惨事間違いなしのトーンで、思わず呟いていた。

――えへへ~。あわ、流していくね。

 耳の中に湯が入らないように、気を付けながら泡を流していく。髪がきれいになったところで洗顔フォームを泡立てる。

――まだ目はつぶっててね。

――んっ。

 優しく顔に触れられ、洗顔フォームをくまなく塗り込まれる。目を瞑ったままで、されるがままにじっとしていた。眉間のしわや小鼻を経て頬から顎へと手のひらで包むようにして、優しく洗う。それからタオルをお湯で絞り顔全体に行き渡った泡を拭っていく。

――もういいよー。

 目を開けると、硬く絞ったタオルで頭をわしわしと揉みほぐしてくれた。続いて体を洗うため、垢すりにボディソープを付けて泡立てる。首筋、肩、胸と順番に洗っていった。その手つきはとても柔らかく、力加減は絶妙だ。骨がもろい俺の身体に配慮してくれている。

――強すぎない?

――ちょうどいいよ。気持ちいい。

――ふんふふん♪

 ユイネはご機嫌な様子だ。とても楽しそうに鼻歌を歌いながら、全身を洗ってくれる。そしてあそこへ手が伸び……

――そ、そこは自分でやるから。

――遠慮しないでいいのに。

 慌てて遮ると、少し残念そうな反応をする。けど、今触られたら興奮を鎮められる自信がない。いいからいいから、と何とかごまかしつつ泡のついた垢すりを取り上げる。極力無心になり、機械的にモノを洗ってゆく。夜使うかも知れないしきれいにしとかないとな。……ううっまずい。余計なことは考えるな。

――苦しそうだけど、だいじょうぶ?

 はっ。無意識に険しい顔をしていたようだ。

――いや、うん、平気。泡流してくれる?

――はぁい。

 やや腑に落ちない様子だが、シャワーをかけてくれる。全身の泡を流し終えると、次は自身の身体を洗い始めた。タオルで隠しながら洗うが、しかしどうしてもチラリと見えてしまう裸体に視線が釘付けになってしまう。健康的で綺麗な肌をしている。俺がじっと見つめているのに気づくと、くすっと笑って言った。

――やっぱり、エッチしたいんでしょう?

――う、まあ、そりゃあね。男だし・・・。

 俺は正直に答えた。

――ふふっ。お風呂終わったら・・・ね?

 耳元で艶めかしく囁く。急に色っぽい仕草をされ、ドキっとする。俺は心臓の鼓動を速めながら、こくんとうなずいた。二人ともきれいになったところで、湯に浸かる。成人男性を軽く上回る馬力と安定感のあるユイネなら浴槽で支えるのも余裕。今日はしっかり温まれそうだ。

――はぁ~。あったまる。

――よかったぁ。いつもシャワーだけだったもんね。

――うん。気持ちいい。

 あまり座位にはなれないので、足をまっすぐ伸ばしラッコが水面に浮いているような格好になる。ユイネが後ろから脇へ手を回し、しっかり抱きかかえてくれる。密着しているせいで、控え目ながらも柔らかく心地良い感触が、タオル越しにふにゅっと背中へ伝わる。人生で一番安らげる風呂に違いない。温まりながら、今日一日の出来事を思い出す。これまでも、旧ボディで一緒に暮らしてはいたが二人っきりでこれだけ長時間過ごしたのは初めてだった。こんなに楽しい日が自分の身に訪れるなんて夢にも思わなかった。これからは毎日こうしてユイネと過ごすことができる。

――……だいじょうぶ?

 どうかしたのかと、心配そうに覗き込んでくる。つい、ぼーっとしてしまっていた。

――ああ、大丈夫だよ。こうやってユイネと二人っきりで過ごせるなんて夢みたいでさ。

――もう、大げさなんだからぁ。でも、私も同じ気持ち……

 そういうと、湯加減以上に顔を赤らめる。

――へへ。よかった。

 しっかり温まり、お風呂からでる。手早く下着姿になったユイネは、あらかじめビニールシートとタオルを敷いたベッドへ俺を移す。バスタオルを掛けてくれ、下着姿のまま俺の髪をドライヤーで乾かしはじめた。優しい手つきで頭を撫でるようにしながら髪の水分を取っていく。体の湿気も取ったところで、服を着せてくれる。

――入浴介助も完璧だなぁ。

――えへへ~。たっくさんシミュレーションしたもん。

 ユイネは満足そうだ。一通り着替えさせ終わると、自分も真新しいネグリジェに袖を通す。薄いピンク色で、裾にフリルがついていて可愛らしい。よく似合っている。

――可愛いよ、とても。

 素直に伝えると照れくさそうに笑う。その仕草もまた愛らしい。

――耳そうじしてあげる。

 想定外の提案に驚く。誰かに耳そうじしてもらうなんて一体いつ振りだ?

――そうくるとは思わなかったよ。じゃあ、お願い。

――はぁい。

 枕元に座り、膝枕をしてくれる。太ももに頭を乗せ横を向く。目の前にユイネのお腹があり、ネグリジェからちらちらと覗くおへそがエロい。左耳に綿棒を差し入れられる。こしょ、こしょ、と優しく擦られるたびにゾクッとする。これはなかなかいいかもしれない。続いて右もしてもらう。絶妙な力加減かつ、的確に耳垢を取っていく。思わずふぅんと鼻息を漏らしてしまう。

――これもシミュレーションしてたの?

――んふっ。そーだよぉ。

――おぉ~、さすがです。

――どういたしましてぇ。

 見直した?と言わんばかりに得意げな顔を見せる。実際ここまで介護士に引けを取らない働きぶりをみせられると脱帽だ。

――すごいよ。惚れ直した。

――……ばか。

 耳そうじを終え、二人でベッドに寝転がる。入浴中の色っぽい囁きを思い出しながらドキドキしていると、ユイネが身体を寄せてきた。お風呂上りのいい匂いが鼻腔をくすぐる。しばらく無言で見つめ合い、どちらともなく口づけを交わす。夜はまだ始まったばかりだった。

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Neetsha